4回目の選択の後で(question:1151507535)

 空の段ボール箱の底には、太い油性マジックで書かれたような文字で次のようにあった。

 水を飲まないことは不正であり、死に値する。
 貴殿が今なお生きていられるのは、当方による特別のはからいである。
 理由:…

 詳細に示されている理由をキチョーが理解するや否や、身に着けていた愛用の鎧が砂になって崩れ落ちた。毒に対抗する加護の力を秘めると伝えられる貴重な装備品を失ったのだ。
 崩れ落ちた理由と、崩れ落ちた結果が何を意味するのかも直ぐに理解出来た。
 キチョーは慌てて部屋の北東の隅に駆け寄り、水を2本、立て続けに飲み干した。
 元々「水を飲まなければ死ぬ」と言うルールが存在するとは理解していなかった。1ブロックほどの部屋に閉じ込められ、大した運動もしなければ、絶対食べねばならないフルーツだけで充分と考えた。余分なものは摂取せずに、この部屋からの脱出の機会を窺う予定だったのだ。
 多少意地汚いが、幸運に脱出できた場合には水とハテナメイトを日数分持ち帰りたいとも考えていた。

これまで2日間死なずに済んだ理由

 ID番号0の者が盛った毒に対しても、鎧の加護の力はある程度の抵抗力を発揮していた。
 初日に目覚めた時点で既に注射されていた毒を、無効化することはなかったが、その毒の回りを非常に遅いものにしていた。

鎧が崩れ落ちた理由

 ID番号0の者の超常的な魔力による。
 ID番号0の者は「設定したルールを理解させ・そのルールの範疇で人命を奪うこと」のために、その能力を行使することを好むのかも知れない。(これが必ずしも正しいとは限らない。しかし「ルールを理解させること」がID番号0の者にとって重要なのは間違いなさそうだ)
 超常的な魔力は段ボール箱の底の文面をして呪の詞たらしめており、この呪はその文面を理解した者の心の拠りどころに等しい装備品を崩れさせる効果を持っていた…と言ったところだろうか?

崩れ落ちた結果が何を意味するのか?

 鎧の加護の力は失われた。初日の毒は本来の速さで回り始める。
 第1日目に届いたほうの水を飲まなければ、29時間後(実際にはそれよりも多少短い)には死ぬ。
 初日に注射されていた毒を鎧の加護が(回りを遅くするのでなく)打ち消しているので心配はない…と言う可能性はない。もし打ち消しているなら、非常に凝った内容の「呪の詞」をID番号0の者が投げかけて来る理由がない。
 キチョーはこれらを理解したため慌てて水を飲んだのだ。
 2本の水はどちらが先に届いたほうか分からないので、2本立て続けに飲むざるを得なかったのである。